相続不動産の実務と最新動向──数字で見る全体設計
相続不動産の取り扱いは、法律・税務・将来の売却戦略を見据えた「全体設計」が不可欠です。ここでは、実際の数字を使ったシミュレーションを交えて、現実的な判断材料を示します。
ケーススタディ 1:子ども2人と配偶者がいる場合
前提条件 故人:父親(70歳) 相続人:配偶者(母)、長男、長女
不動産:市街地マンション1戸
取得価格:3,000万円
現在の時価:5,000万円
法定相続分 配偶者:1/2(2,500万円相当) 長男:1/4(1,250万円相当) 長女:1/4(1,250万円相当)
相続税シミュレーション 基礎控除 = 3,000万円 + (600万円 × 相続人3人) = 4,800万円 課税対象額 = 総資産5,000万円 - 基礎控除4,800万円 = 200万円
課税相続額の配分 配偶者1/2:100万円 長男1/4:50万円 長女1/4:50万円 ※実際には配偶者控除により、配偶者の相続税は0円となる可能性が高い。
譲渡所得税シミュレーション(配偶者が売却する場合)
取得費:3,000万円 × 配偶者の法定相続分(1/2) = 1,500万円
売却価格:5,000万円 × 1/2 = 2,500万円
譲渡所得 = 売却価格 - 取得費 - 諸経費 = 2,500万円 - 1,500万円 - 100万円(諸経費) = 900万円
譲渡所得税(概算) = 900万円 × 20%(所得税・住民税合計) = 180万円
ケーススタディ 2:兄弟姉妹のみが相続人の場合
前提条件 故人:未婚の叔母(80歳) 相続人:兄、姉
不動産:田舎一戸建て(評価額800万円)
相続税シミュレーション 基礎控除 = 3,000万円 + (600万円 × 2人) = 4,200万円 課税対象額 = 800万円 - 4,200万円 = 0円 → 相続税なし
譲渡所得税シミュレーション(兄が売却する場合)
取得費 = 評価額の半分 = 400万円
売却価格 = 400万円 譲渡所得 = 売却価格 - 取得費 - 諸経費 = 400万円 - 400万円 - 50万円 = -50万円 → 所得なし ※地方の低額不動産では譲渡所得税が発生しないケースも多い。
ケーススタディ 3:遠方に複数の相続人がいる場合
前提条件 故人:父親(東京都在住)
相続人:東京2人、地方1人 不動産:地方マンション(評価額3,500万円)
相続税シミュレーション
基礎控除 = 3,000万円 + (600万円 × 3人) = 4,800万円 課税対象額 = 3,500万円 - 4,800万円 = 0円 → 相続税なし
譲渡所得税シミュレーション(長男が売却する場合)
取得費:3,500万円 × 1/3 = 約1,167万円
売却価格:3,500万円 × 1/3 = 約1,167万円 諸経費:50万円 譲渡所得 = 1,167万円 - 1,167万円 - 50万円 = -50万円 → 所得なし
シミュレーションから学ぶポイント
相続税は基礎控除と配偶者控除の影響で、都市部以外の小規模不動産では課税ゼロも珍しくない
譲渡所得税は取得費や売却価格を正確に把握しないと課税額に大きな差が出る
遺産分割協議書の作成で、税務上のリスクを回避できる
遠方相続人や共有状態の不動産では、非対面での協議や専門家活用が有効
まとめ 相続不動産は法律・税務・売却戦略を一体で設計することが重要 登記義務化、遺産分割協議書、税務シミュレーションの組み合わせがトラブル回避の鍵 早めの対応が、将来の円滑な管理と売却を保証する