事業承継と相続の同時進行リスク|混乱を避けるための実務ポイント
中小企業の多くは「創業者=経営者=資産所有者」という構造で成り立っています。そのため、事業承継の準備を進めている途中に経営者が突然亡くなる、または 相続と事業承継が時期的に重なるというケースが非常に多くみられます。 この “同時進行” が起こると、企業運営はもちろん、遺産分割協議や相続税申告にも大きな影響を与えます。 ここでは、事業承継と相続が重なった場合に起きるリスクと、避けるための具体的な対策を詳しく解説します。
1. 事業承継と相続が同時に発生すると何が起きる? ① 自社株の承継がストップし、経営が不安定化 中小企業の価値の多くは 自社株式 に集約されています。 経営者が亡くなると株式は相続財産となり、以下の問題が発生します。 相続人が複数いると自社株が共有状態になる 会社の議決権が誰のものか決まらない 代表者選任が遅れ、銀行取引や契約行為が停止 特に金融機関は「経営者死亡=融資回収リスク」と判断しやすく、融資姿勢が一気に厳しくなることもあります。 ② 事業用資産と私的資産が混ざって遺産分割が難航 中小企業では、経営者が所有する以下の資産が事業と密接に関係しています。 事業用不動産(工場・店舗) 会社への貸付金・会社からの借入金 自社株 「会社の存続を優先したい相続人」と 「公平な相続を求める相続人」 の間で意見が折り合わず、遺産分割が長期化し、会社の意思決定も止まります。 ③ 相続税の納税資金が足りず、会社を売却することも 経営者が亡くなると、 自社株の評価額+不動産+預金など が相続税の対象になります。 中小企業の株価は思いのほか高額になりやすく、 「納税資金が足りない」という現象がよく起きます。 最悪の場合は、 会社の一部事業を売却 不動産売却 経営権を手放す といったケースに発展することも珍しくありません。
2. 同時進行リスクを回避するために今できること ① 早期の事業承継計画の策定(5年〜10年スパン) 事業承継は、突然やってくる相続と違い“計画できる”点が最大のメリットです。 後継者の育成 経営権と所有権の承継ルール作り 自社株評価の引き下げ対策 これらを 生前から時間をかけて行うことで、相続の発生時にも混乱が起きにくくなります。 ② 株式の承継は早めに実行(贈与・売買・種類株式) 自社株が相続財産に含まれないよう、以下の手法が利用できます。 生前贈与(事業承継税制の活用) 自社株の一部を後継者に売却 親族・役員に配当優先株、後継者に議決権株を持たせる 特に 事業承継税制(特例措置) は、株式にかかる贈与税・相続税を最大100%猶予できる強力な制度です。 ③ 家族で「遺産分割方針」を事前に共有 相続と事業承継を切り離すために最も重要なのが、 家族への事前説明と合意形成 です。 「会社は誰が承継するか」 「他の相続人には何を渡すか」 「相続税は誰がどのように支払うか」 これらを明らかにするだけで、相続発生時のトラブルリスクは大幅に減ります。 ④ 遺言書・家族信託の活用で経営を止めない 事業資産を誰に引き継ぐかが明確でない場合、会社経営が一気に止まります。 以下を組み合わせるとスムーズです。 公正証書遺言(自社株の承継先を明確に) 家族信託(認知症対策として有効) 生命保険(相続税の納税資金対策) 特に 認知症対策としての家族信託 は、経営判断を安全に続ける仕組みとして中小企業で採用が増加しています。
3. ぱんだhouseからのひとこと 事業承継と相続は「別々の問題」と考えられがちですが、実務上は密接に絡み合うことが多いテーマです。 特に 自社株の評価が高い企業や、不動産を多く所有する経営者 は、同時進行リスクが現実的な問題になります。 「まだ早い」と思っているタイミングこそ、対策の最適時期です。 不動産の評価・株価対策・遺産分割の方針づくりなど、早期の準備が会社と家族を守ります。