土地建物の所有不一致 ケーススタディ

ケーススタディ:土地と建物の所有者が異なるときに起こり得るトラブルと解決策

 

1.ケースの概要 あるご夫婦がマイホームを計画。 土地はご主人の父(義父)が所有しており、建物は奥様名義で建築する予定とします。 「家族だから大丈夫」「土地は父のものだから安心」と考えがちですが、土地と建物の所有者が異なること自体が法的リスクをはらんでいます。 このケースをもとに、起こり得るトラブルとその解決策を整理します。

 

2.発生しやすい問題点

① 使用権限の不明確さ 義父が「無償で使っていいよ」と口頭で了承しただけでは、使用貸借(無償使用)とみなされます。 使用貸借は相続発生時に効力が薄れ、他の相続人が「土地を返してほしい」と請求できる可能性があります。

② 相続発生時の混乱 義父が亡くなると土地は相続財産になります。 相続人が複数いる場合、奥様は相続人ではないため直接の権利がなく、土地を使用し続けられる保証はありません。 最悪の場合、他の相続人から「地代を払ってほしい」「土地を売却したい」と要求され、奥様が建てた建物を処分せざるを得ない状況に追い込まれることもあります。

③ 金融機関の融資制限 建物のローンを組む場合でも、金融機関は「建物が建つ土地の権利関係」を重視します。 土地が他人名義だと担保価値が低く、融資が断られるケースあり。 たとえ融資が下りても、義父の「土地使用承諾書」が必要となり、家族間でも煩雑な手続きを求められます。

④ 売却や処分の困難 将来、家を売りたいと考えても、土地と建物の所有者が異なる場合は買い手が付きにくく、売却価格も下がります。 不動産市場では「土地・建物一体での所有」が一般的だからです。

 

3.解決策と対応方法

解決策1:土地を事前に整理する 義父からご夫婦に土地を売買または贈与しておくのが最も安全。 贈与税の負担が大きい場合は、相続時精算課税制度を利用して移転する方法もあります。

メリット:土地と建物の名義が一致し、将来のトラブルがほぼ解消される。

デメリット:贈与税・登録免許税・不動産取得税の負担が発生。

解決策2:借地契約を明文化する 義父を地主、奥様を借地人とする借地権契約書を作成。 さらに、借地権登記を行えば、相続人や第三者に対しても土地使用権を主張できます。

メリット:相続発生時に他の相続人から「出て行け」と言われにくい。

デメリット:借地権設定登記により土地の流動性が下がり、義父や他の相続人が不満を抱く可能性もある。

解決策3:遺言や家族信託を活用 義父が生前に「土地を奥様に相続させる」「長男に相続させるが、奥様には借地権を与える」といった遺言を作成しておく方法も有効。 さらに、義父が元気なうちに家族信託を設定すれば、将来の承継先を柔軟に指定でき、相続後の争いを回避できます。

 

4.実際にあった事例

事例1:義父死亡後に兄弟間トラブル 義父が他界後、土地は3人の相続人で共有に。 奥様は建物の所有者でしたが、他の兄弟から「土地を売りたい」と言われ、建物を解体せざるを得ませんでした。

事例2:住宅ローン審査で大幅遅延 土地名義が義父のままだったため、金融機関から「土地使用承諾書」と「担保設定同意書」を求められ、融資実行が1か月以上遅延。 建築スケジュールが狂い、追加費用が発生しました。

 

5.まとめ 土地と建物の所有者が異なることは、相続・融資・売却のすべてにリスクを生む。 最も安全なのは、土地と建物の名義を一致させること。 難しい場合は、借地契約の明文化や遺言による整理でトラブルを回避できる。 家族間の「信頼関係」だけに頼るのは非常に危険です。 建物を建てる前に、必ず司法書士や不動産専門家に相談し、法的な裏付けを整えてから着工することを強くお勧めします。

 

2025年09月26日