☆相続時精算課税制度を使うべきケース

📘 相続時精算課税制度を使うべきケース|使う前に必ず知っておきたい実務ポイント

「相続時精算課税制度」は、贈与税を軽減しながら早めの資産移転を可能にする制度です。 しかし、一度選択すると“原則一生変更できない”うえ、相続時にまとめて精算されるため、使い方を誤ると税負担が増えることもあります。 正しく使えば非常に強力ですが、安易に使うと取り返しがつきません。 ここでは、相続時精算課税制度を「使うべきケース」「使ってはいけないケース」を実務に基づいて詳しく解説します。

 

■ 1. 相続時精算課税制度とは? 60歳以上の父母・祖父母から、18歳以上の子・孫へ贈与する際に利用できる制度で、 贈与額2,500万円まで贈与税ゼロ 2,500万円を超えた分は一律20% ただし、相続が発生した時に贈与財産を相続財産に合算して相続税を計算する(=精算する)仕組みです。 つまり今は無税でも、将来の相続税で調整される制度です。

 

■ 2. この制度を使うべきケース(効果が大きいパターン

) ●(1)将来値上がりする不動産を早めに移転したい場合 相続時精算課税の最大のメリットは 贈与時の評価額で相続税に反映されることです。 そのため、 駅近の土地 再開発エリア 将来資産価値が上がる可能性が高い不動産 こうした資産を「値上がりする前に」子へ移しておくことで、 将来の相続税負担が大きく減ります。 例: 贈与時評価3,000万円 → 相続時評価6,000万円 → 贈与時の評価(3,000万)で固定されるため、差額分の税負担が軽減。

●(2)親が高齢で、早めに名義を移しておきたい場合 認知症などで判断能力が失われると、 贈与・売却・修繕など一切の契約が不可能になります。 「認知症になる前に名義を移したい」 「財産管理を子の名義で進めたい」 という場合には非常に有効です。

●(3)自宅を子へ引き継ぎ、将来の売却をスムーズにしたい場合 親名義のままでは、相続手続きが終わるまで売却ができません。 また、将来複数の相続人が発生すると、共有名義になり売却が困難になります。 先に名義を移しておくことで、 売却のタイミングが自由 リフォームも子の判断で可能 相続人間のトラブルを予防 といった利点があります。

●(4)相続税がもともと発生しない家庭 「相続税の課税ライン(基礎控除3,000万円+600万円×法定相続人)以内」の家庭は、 精算課税を使っても相続税負担はそもそも発生しません。 であれば、一括で多額の贈与をしてもリスクが少なく、 子が住宅購入の頭金にしたい 独立起業の資金を渡したい 学費・留学費に充てたい こうした“生活支援型”のケースなら非常に有効です。

●(5)生前贈与を毎年行うより、一気に渡したい場合 毎年110万円の暦年贈与は時間がかかります。 親が高齢 数年以内にまとまった資金が必要 不動産購入で頭金を大きく出したい こういった場合、 2,500万円まで一気に贈与できる精算課税は利便性が高い制度です。

 

■ 3. 逆に“使うべきではない”ケース メリットだけでなく、デメリットも十分理解しておく必要があります。

●(1)相続税が発生する可能性が高い家庭 暦年贈与(年110万円)による贈与は、 相続税の対象に「持ち戻される可能性が低い」ため、 結果として相続税の節税になることがあります。 相続時精算課税はすべて合算されるので、 節税効果がないどころか増税になるケースも多いです。

●(2)不動産価値が下がりそうな場合 精算課税は贈与時の評価額で固定されるため、 将来値下がりした場合は損になります。 例: 贈与時5,000万円 → 相続時3,000万円 → 高値の時の評価が相続税に使われてしまい不利に。

●(3)親が自宅を使い続ける場合 親が住みながら子名義にする場合、 将来売却するときに“みなし贈与”・小規模宅地非適用”のリスクがあり、 税務上の取り扱いが複雑になります。 慎重な検討が必要です。

 

■ 4. 相続時精算課税と相続税の関係 精算課税を使った場合でも、 相続税の納税資金確保は必ず検討しておく必要があります。 不動産だけ贈与していた 現金が残っていない 相続税を払う資金がない こうしたケースでは売却が必要になることも。 事前に不動産会社や税理士と「相続後の全体像」を計画しておくことが重要です。

 

■ 5. まとめ:相続時精算課税を使うべき家庭は限定される 相続時精算課税は強力な制度ですが、 誰にでも向いているわけではありません。 使うべきケース 将来値上がりする資産の贈与 親が高齢で名義移転を急ぎたい 相続税がそもそもかからない 子の資金ニーズが大きい 早期の相続準備をしたい 使わない方がよいケース 相続税が発生しそう 不動産価値が下がる可能性がある 親が住み続ける自宅の場合は要注意 制度の選択は“ご家族の状況と資産内容”で大きく異なるため、 専門家に事前相談することが最も重要です。

2025年12月13日