☆生前贈与の110万円控除の正しい理解

📘 生前贈与の「110万円控除(基礎控除)」を正しく理解する — がっつり解説

「毎年110万円までなら贈与税がかからない」――この一文はよく聞きますが、実務では正しく理解していないと後で損をする場面が多いです。ここでは基礎控除の仕組み、計算例、申告・書類、落とし穴、節税上の実務的注意点、使うべきケース・避けるべきケースまで、実務家目線で詳しくまとめます。

 

1) 基本のルール(要点まとめ) 基礎控除の額:1年間(1月1日〜12月31日)に対する贈与で、受贈者(もらった人)ごとに110万円まで贈与税がかからない(非課税)。 対象:現金・不動産・有価物など「贈与」に該当するもの。 期間:暦年単位(年ごと)。同じ受贈者が複数回もらった合計額で判断する。 贈与税の課税:合計が110万円を超えた場合、超えた分が贈与税の課税対象。 申告義務:通常110万円以下なら申告不要。ただし、例外(相続時精算課税選択など)の場合は申告が必要になることがある。

 

2) 具体的な計算例(必ず“年ごと・人ごと”) 例1(単純現金贈与) Aさん(受贈者)が親から2025年に合計150万円を贈与された場合: 計算(数字を逐一) 合計贈与額 = 150万円 基礎控除 = 110万円 課税対象 = 150万円 − 110万円 = 40万円 → 40万円に対して贈与税の税率表に従って税額を計算(ここでは税率別途参照)。 例2(複数回) 同じ年に3回に分けて50万円ずつ贈与された場合:合計は 50 + 50 + 50 = 150万円 → 上と同じ計算。 ポイント:分割して贈与しても、合算して判断されます。

 

3) 「贈与」に該当するかどうかの判断(重要) 単に現金を渡せば贈与とは限りません。実務で争いになりやすい形: 名義預金(親の口座に子の名義で預けられているなど):名義と実質が異なる場合、贈与と判断されるリスクあり。 生活費の立替:通常の生活費の立替は贈与とは扱われないが、継続して高額なら贈与と見なされる場合あり。 贈与に見せかけた貸付(返済がない):実質贈与と判断される。 不動産の名義変更(贈与登記):評価額で贈与と見なされる。市場価格での評価が必要。 → 実務上は「誰が負担しているか」「契約や書面があるか」「対価があるか」を明確にしておくこと。

 

4) 申告と書類(110万円以下でも注意点あり) 原則:受贈者ごとの年間合計が110万円以下なら申告不要。 例外的に申告が必要な場合:相続時精算課税制度を選択した年や、特例贈与(住宅取得資金等)を受けた場合などは、たとえ110万円以下でも申告が要るケースがあります。 証拠保全:現金贈与でも、後で「本当に贈与だったか」を証明できるように、贈与契約書、振込履歴、領収書、受領印などを残しておくことが重要。特に高額贈与の前後は書面化を推奨。 贈与税の申告期限:贈与を受けた翌年の2月1日〜3月15日(確定申告期間内)。ただし110万円以下なら通常は不要。

 

5) 「現金以外」の贈与(物・不動産)は評価が鍵 不動産や株式などは贈与時点の評価額で課税されます。評価方法は種類によって異なるため、専門家に相談すべき点: 不動産:相続税評価額・路線価・固定資産評価などで算定(評価方法の選択が結果に影響)。 株式:上場株は市場価格、非上場株は類似業種比準法等で評価。 家財:時価で評価(古物は評価が低くなることが多い)。 → 贈与の際は「評価額メモ」と「相場情報」を保存しておく。

 

6) 年110万円×複数人の活用法(実務的な節税テク) 子・孫それぞれに110万円ずつ贈与すれば、家族全体で大きな金額を非課税で移転できる。 例:親が子2人と孫2人にそれぞれ110万円ずつ贈与すれば、合計で 110 × 4 = 440万円 を贈与税なしで移転可能。 毎年継続して行うことで、長期的に資産移転を進める(ただし贈与の目的や生活実態で否認されるリスクに注意)。 教育資金や結婚・住宅取得資金の特例(制度がある場合)は別枠で有利な場合あり(利用条件と申告が必要)。

 

7) 相続時精算課税制度との関係(重要) 相続時精算課税制度を選択すると:原則としてその制度で贈与した財産は、暦年110万円の基礎控除とは別の取扱いになります。 要注意:一度相続時精算課税を選択すると基本的に取り消せない(生涯選択)。したがって、暦年贈与と相続時精算課税のどちらを使うかは戦略的判断が必要。 実務的には「少額を毎年(110万円)」「大きい不動産は相続時精算課税で」など組合せを検討することがあるが、税務上の扱いが複雑になるため専門家と事前設計を。

 

8) よくあるトラブル・税務否認パターン(実例ベース) 「名義だけ子にしている預金」が後で贈与と認定され、追徴課税になった。 住居の名義を子に移したが親が住み続け、税務署から「贈与」と認定される → 小規模宅地等の特例の適用ができない等不利益発生。 まとまった現金移転を分割して毎年110万円以下に見せかけたが、実質の一度の贈与と判断され否認。 → 対策:契約書、振込履歴、目的・対価の明確化。税理士や司法書士に相談。

 

9) 実務上のチェックリスト(贈与前に必ず!) 目的を明確に(生活資金・教育・住宅・相続対策など) 受贈者ごとの年間合計を管理する(誰がいついくら受け取ったか) 振込等の記録を残す(通帳コピー) 贈与契約書を作る(特に高額・不動産) 贈与税の申告要否を確認(相続時精算課税選択の有無も) 不動産は評価方法と税負担の試算を必ず行う 大きな贈与は専門家(税理士)と事前にシミュレーション

 

10) どんなケースで110万円控除を使うべきか(実務的アドバイス) 使うべきケース 子・孫への定期的な生活支援(教育費・生活費補助)をしたいとき。 高齢の親が小口で資産移転を進めたいが、税申告の負担を避けたいとき。 複数の相続人に少額ずつ移して将来の相続税を抑制したいとき(長期戦略)。 使うべきでない/注意すべきケース 一度に大きな資産(不動産等)を渡す予定がある場合(相続時精算課税などを検討)。 親が住み続ける不動産を名義変更だけで移す場合(税務上の取扱いが複雑)。 「名義だけ移す」ような操作は税務否認リスクが高い。

 

11) 最後に(結論・実務家からの一言) 110万円の基礎控除は強力で使いやすい制度ですが、「何を」「誰に」「どのように」渡すかの設計が重要です。現金の小口贈与は比較的安全ですが、不動産や長期にわたる移転は評価や税務判断が絡みます。失敗を防ぐ最良の投資は「事前の専門家相談」です。 必要なら、あなたの資産構成・家族構成を教えていただければ、具体的なシミュレーション(暦年贈与 vs 相続時精算課税・不動産贈与の評価など)を作成します。

2025年12月13日