国庫帰属法 ケーススタディ

相続土地国庫帰属制度(国庫帰属法)ケーススタディ解説

 

1. 制度の概要 2023年4月に施行された「相続土地国庫帰属制度」は、 相続した不要な土地を一定の条件のもとで国に引き渡せる制度です。 相続登記の義務化とセットで導入され、 「利用予定のない土地を相続せざるを得ない」 「管理費や固定資産税の負担だけが増える」 といったケースの救済策として位置づけられています。

 

2. 申請から国庫帰属までの流れ 相続登記を完了 法務局に「国庫帰属の申請」 法務局による 要件審査(不適格事由の有無確認) 審査通過後、負担金の納付(原則20年分の固定資産税相当額) 国への帰属が確定

 

3. 適用できない土地の例(不適格事由) 建物が建っている土地 他人の権利が設定されている土地(抵当権、地上権など) 境界が不明確な土地、争いのある土地 崖地や管理困難な土地 土壌汚染がある土地 👉 要するに「国が容易に管理できる土地」でないと認められない、という点が大きなハードルです。

 

4. ケーススタディ①:地方の山林を相続 事例設定 相続人:次男 相続財産:山林2,000㎡(評価額は低いが利用予定なし) 固定資産税:年間3万円 シミュレーション 負担金=固定資産税3万円 × 20年分 = 60万円 👉 相続人は60万円を支払えば、その後の管理義務や税負担から解放される。 山林の売却や活用が不可能な地域では有効な選択肢。

 

5. ケーススタディ②:市街地の古家付き土地 事例設定 被相続人宅:市街地の土地120㎡、上物は築50年の空き家 固定資産税:年間10万円 ポイント 建物が残っていると申請できない → 相続人はまず建物を解体する必要あり(解体費用:200万円想定)。 シミュレーション 負担金=10万円 × 20年分=200万円 解体費用200万円+負担金200万円=合計400万円必要。 👉 売却可能な立地なら、解体後に売却する方が経済合理的。 👉 市街地の物件で国庫帰属は「最終手段」となるケースが多い。

 

6. ケーススタディ③:境界不明確な農地 事例設定 農村部の農地500㎡ 隣接地との境界が未確定 ポイント 境界確定測量を行わなければ国庫帰属できない。 測量費用50万円~100万円が必要となる。 👉 農地バンクへの貸付や地元の農家への売却を検討した方が現実的。

 

7. 制度の長所と短所 長所 管理困難な土地を最終的に処分できる 相続人の将来負担(管理・税金)を回避できる 相続放棄より柔軟(他の財産は相続して土地だけを手放せる) 短所 「誰でもどんな土地でもOK」ではない(審査が厳しい) 建物付き土地は解体が必須でコスト大 負担金が20年分と高額に感じられることも 申請から承認まで時間がかかる

 

8. 実務的アドバイス 早めの検討が重要:相続開始直後から「国庫帰属か売却か」を判断する 地元不動産業者や農地バンクへの相談を先行:売却・貸付の可能性をまず確認 測量・解体の必要性をチェック:隠れコストに要注意 他の相続人との調整を怠らない:共有状態の土地は申請がさらに複雑

 

9. まとめ 国庫帰属制度は「最終的に土地を処分するための出口戦略」として有効ですが、 売却・活用できる余地がないかをまず検討し、 そのうえで「管理困難」「市場性ゼロ」と判断できる土地に限って利用するのが現実的です。 👉 相続不動産の対応は「売却」「貸付」「活用」「国庫帰属」の4択。 👉 早めにシミュレーションと専門家相談を組み合わせることで、相続人の負担を大幅に減らすことができます。

2025年09月06日