土地の贈与税 ケーススタディ

1. 贈与税の基本ルール

贈与税は「個人から財産をもらった人」に課される税金です。特に土地や建物のような不動産は金額が大きいため、課税が重くなりやすいのが特徴です。 課税方法 贈与税には 暦年課税制度 と 相続時精算課税制度 の2種類があります。

暦年課税:毎年110万円まで非課税、それを超える部分に累進税率(10〜55%)を適用

相続時精算課税:2,500万円まで非課税、それを超える部分に一律20% 👉 「土地の贈与税」と言う場合、基本的には 暦年課税制度 で計算することが多いです。

 

2. 土地贈与の評価方法 贈与税の計算に使う土地の価額は、通常の売買価格ではなく 相続税評価額(路線価や固定資産税評価額) を用います。 宅地(市街地) → 路線価方式(国税庁が毎年公表) 郊外・農地など → 固定資産税評価額を基に倍率方式 👉 市場価格よりも低く評価される場合が多い(7〜8割程度)。

 

3. ケーススタディ①:住宅地の土地を親から子へ贈与 事例設定 父から子へ贈与 市街地宅地 100㎡、路線価:30万円/㎡ 評価額:30万 × 100㎡ = 3,000万円 贈与税計算(暦年課税) 贈与額:3,000万円 基礎控除:110万円 課税価格:2,890万円 贈与税速算表(特例税率:直系尊属→子への贈与) 2,000万円超〜3,000万円以下 → 税率45%、控除265万円 👉 贈与税:2,890万 × 45% − 265万 = 1,041万5千円 つまり、土地3,000万円を贈与すると 1,000万円超の贈与税 が発生。現金納付が必要なため、実際にはかなり負担感が強い。

 

4. ケーススタディ②:相続時精算課税制度を利用 同じ条件で「相続時精算課税」を選択した場合。 贈与額:3,000万円 特別控除:2,500万円 課税対象:500万円 税率:20% → 贈与税:100万円 👉 贈与時の負担は100万円と大幅に軽減。 ただし、父の死亡時にはこの土地3,000万円が「相続財産」に加算されて再計算されるため、最終的に節税になるとは限らない。

 

5. ケーススタディ③:住宅取得資金贈与の非課税特例を利用 父から子へ、土地を住宅建築のために贈与 条件を満たせば「住宅取得等資金贈与の非課税特例」が使える 令和5年基準:最大1,000万円まで非課税(耐震・省エネ住宅の場合) 👉 路線価3,000万円の土地を贈与した場合でも、1,000万円まで贈与税がかからず、残り2,000万円部分に課税される。 贈与税計算 課税額:2,000万 − 110万 = 1,890万 税率:45%、控除265万 贈与税:1,890万 × 45% − 265万 = 588.5万円 👉 特例なしのケース(1,041万5千円)に比べ、約450万円の節税効果。

 

6. ケーススタディ④:小規模宅地の評価減を先に適用できるか? 結論 → 贈与時には小規模宅地の特例は使えない。 これは「相続時の評価減」であり、生前贈与では認められていない。 👉 相続時精算課税で贈与した場合、後から相続で「小規模宅地の特例」を使えないため、思わぬ税負担増となることがある。

 

7. 土地贈与の注意点 贈与税は現金で納める必要がある(土地では納められない) 登記費用・不動産取得税・登録免許税などの諸費用も発生 将来値上がりが見込まれる土地を贈与すると相続税上不利になることがある 相続税対策を考えるなら、むしろ「相続で引き継ぐ方が有利」なケースも多い

 

8. 実務での使いどころ 相続税がかからない家庭:早めに贈与しても負担なし、子世代の住宅取得に役立つ 資産承継の円滑化:事業用地や自宅の土地を早めに承継しておきたい場合 相続トラブル回避:特定の子に確実に土地を承継させたい場合 👉 ただし「節税目的」だけで土地贈与を行うと、逆に負担増になりがち。必ず 相続時まで含めたシミュレーション が必要。

 

まとめ 土地の贈与は、金額が大きいため贈与税も非常に重くなります。 暦年課税では莫大な贈与税がかかる 相続時精算課税で一時的に軽減できるが、将来の相続で再精算される 特例(住宅資金贈与等)を併用すれば負担を抑えられる 小規模宅地特例は相続でしか使えない 👉 「土地贈与は節税になる」とは一概に言えません。 むしろ「相続で渡したほうが有利」なケースが多いため、専門家による事前の試算が必須です。

2025年09月21日