生前贈与 ケーススタディ

1. 生前贈与とは?

生前贈与とは、相続が発生する前に財産を子や孫へ移転すること。 目的は主に以下です: 相続財産を前もって減らして 相続税を軽減 早めに財産を移転して 生活支援や教育資金に充てる 相続トラブルを防ぐ(財産分けの見通しを早めに立てる) ただし、贈与には 贈与税 がかかり、相続税との関係で慎重な設計が必要です。

 

2. 贈与の代表的な制度

(1) 暦年贈与 1人につき年間110万円まで非課税 超過分は累進課税(10〜55%) 長期的に少しずつ財産を移せる

(2) 相続時精算課税制度 2,500万円まで非課税 超過分は一律20%課税 相続時に持ち戻して相続税で再精算 評価額を贈与時点で固定できるメリット

(3) 特例贈与 教育資金一括贈与(1,500万円まで非課税) 結婚・子育て資金贈与(1,000万円まで非課税) 住宅取得資金贈与(最大1,000〜1,500万円非課税、条件付き)

 

3. ケーススタディ①:暦年贈与でのコツ 前提条件 父:70歳 財産:現金6,000万円 相続人:子2人 そのまま相続 基礎控除:3,000万 + 600万×2人=4,200万 課税価格:6,000万 − 4,200万 = 1,800万 相続税:概算で約180万円 暦年贈与(110万 × 2人 × 10年=2,200万を生前移転) 相続時の財産:6,000万 − 2,200万 = 3,800万 課税価格:3,800万 − 4,200万 = 0円 相続税:ゼロ ✅ 10年間計画的に贈与するだけで、相続税を完全に回避。

 

4. ケーススタディ②:相続時精算課税制度の活用 前提条件 父:65歳 財産:土地(現在4,000万、将来値上がり見込み6,000万) 相続人:子1人 相続時にそのまま承継 相続時評価:6,000万課税 生前贈与(相続時精算課税利用) 贈与時の評価:4,000万で固定 超過分1,500万(=4,000万−2,500万)は贈与税20% → 300万 相続時には4,000万が課税対象(値上がり分は考慮されない) ✅ 土地の値上がり分2,000万を非課税で移転できた計算 👉 値上がりが予想される不動産は、相続時精算課税が有利。

 

5. ケーススタディ③:住宅取得資金贈与 前提条件 父:70歳 財産:現金5,000万 子:30歳、住宅購入予定 特例枠:1,000万円(省エネ住宅なら1,500万) 贈与した場合 1,000万円まで非課税 残りの4,000万は相続財産に残る メリット 子が若いうちに住宅購入できる 父の相続財産を前もって減らせる ✅ 実需と税務対策を兼ねた、典型的な「攻守両用型」生前贈与。

 

6. ケーススタディ④:高額贈与の落とし穴 前提条件 父:80歳 財産:現金1億円 相続人:子2人 父が急いで5,000万円を子に贈与 贈与税 暦年贈与では控除110万を除き4,890万 税率55% → 贈与税約2,700万 👉 相続税で納めるより負担が大きくなり逆効果 ✅ 生前贈与は「少額を計画的に」「値上がり資産を早めに」移すのが鉄則。

 

7. 生前贈与の留意点 相続開始前3年以内の贈与は持ち戻し課税 連年贈与は形式に注意(毎年同じ金額・同じ日付だと否認リスク) 受贈者の納税能力も確認(高額贈与で贈与税が払えないと本末転倒) 不動産贈与は登記費用・不動産取得税もかかる 贈与は「相続税の節税」だけでなく「財産承継・生活支援」と一体で考える

 

まとめ 生前贈与は、 暦年贈与で「コツコツと時間をかけて」 相続時精算課税で「値上がり資産を早めに移転」 特例贈与で「住宅や教育など目的を持って」 という3本柱で考えるのが基本です。 👉 ポイントは、贈与税の重課を避けつつ、相続税の課税財産を減らすバランス。 特に「相続直前の駆け込み贈与」は失敗リスクが大きく、計画性が命です。

2025年09月23日