意思能力 ケーススタディ

🏠意思能力がない被相続人の不動産売却:ケーススタディ

 

1. ケース概要 被相続人:田中一郎さん(87歳、認知症で意思能力なし) 相続人:長男 太郎(60歳)、長女 花子(58歳) 資産状況:自宅(土地200㎡・建物100㎡)と預貯金、その他少額財産 課題: 不動産の売却を希望するが、田中さんに意思能力がない 高額な固定資産税や管理費の負担が大きい 将来的な二次相続に備えたい

 

2. 発生する問題点・課題

① 契約の無効リスク 太郎・花子が「親の意思を尊重して売却したい」と考えても、意思能力がない田中さん本人が契約することはできない。 無断売却や署名の偽装は法律上無効。トラブルの元。

② 家族間の争い 「売却して現金化すべき」派と「自宅は残すべき」派で意見が分かれると、相続発生後の遺産分割で揉める可能性が高い。

③ 財産管理・税務負担 固定資産税や建物維持費が高額 売却できないことで老後資金や介護費の圧迫が長期化 3. 解決策の適用(制度ごとの判断)

 

ケースA:成年後見制度を利用 太郎・花子が家庭裁判所に成年後見人選任申立 太郎が後見人として選任(例) 後見人として裁判所に不動産売却許可を申請 許可取得後、宅建業者を通じて売却 売却代金は田中さんの預貯金口座に入金され、生活費・介護費に充当 📌 ポイント: 裁判所の許可が必要で手続きに時間がかかる 手数料・報告義務が発生 売却後の代金管理は厳密に行う

 

ケースB:家族信託(田中さんがまだ意思能力を部分的に保持) 信託契約を作成 田中さん → 委託者兼受益者 太郎 → 受託者 不動産を信託財産に設定 太郎が信託契約に基づき売却手続きを実行可能 売却代金は信託財産として管理され、田中さんの生活費や介護費に充当 📌 ポイント: 委託者の意思能力があるうちに契約が必須 柔軟に売却・運用できる 家族間での合意が重要

 

ケースC:任意後見契約(将来に備える) 田中さんが軽度認知症でまだ判断能力がある段階で契約 将来意思能力が低下した場合に太郎が任意後見人として売却手続きを実行可能 成年後見より柔軟で、事前に財産管理方針を明確化できる 📌 ポイント: 事前契約が必須 将来のトラブルを防ぐ予防策として有効

 

4. 実務上の注意点 売却代金の管理:後見・信託制度下では用途を限定して管理 売却価格の妥当性:裁判所や受託者は適正価格で売却する義務 相続税・贈与税への影響:売却後の資金運用や分割方法を税務専門家と確認

 

5. まとめ 意思能力のない被相続人の不動産売却は、無効リスク・家族間トラブル・財産管理の課題が伴う 制度選択の目安: 意思能力なし → 成年後見制度 意思能力あり → 家族信託・任意後見契約 専門家(司法書士・弁護士・税理士)による早期相談がトラブル防止の鍵

2025年09月28日