代理契約 ケーススタディ

■ 他人物の代理人契約と委任状偽造リスク 〜身内間だからこそ陥りやすい落とし穴〜

 

◆ 背景と問題意識 不動産売却や相続手続きの現場では、「家族だから大丈夫」という認識から、正式な手続きを経ずに代理人として契約を締結してしまうケースが少なくありません。 しかし、正当な代理権のない者が締結した契約は無効であり、さらに委任状を偽造した場合は刑事罰(私文書偽造罪・同行使罪など)の対象となる重大な問題です。 また、不動産取引は金額が大きく、第三者(買主・仲介業者・司法書士・金融機関)も巻き込むトラブルに発展しやすいため、慎重な対応が求められます。

 

◆ 主な問題点・リスク 契約無効リスク  → 代理権がない者が締結した売買契約は無効。買主は所有権移転登記ができず、損害賠償請求が発生することも。 刑事責任  → 偽造した委任状を使用した場合は、私文書偽造・同行使罪(刑法159条・161条)に該当し、懲役刑もありうる。 民事責任  → 偽造により相手方に損害が生じた場合、不法行為責任として損害賠償義務を負う。 身内間トラブル  → 相続人間の不信感・対立が激化し、その後の遺産分割協議にも悪影響。 専門家・取引関係者も巻き込む  → 宅建業者・司法書士・金融機関は正当な委任状を前提に手続きを進めているため、職業上の責任問題にも波及する。

 

◆ ケーススタディ

● 事案の概要 被相続人Aが死亡。相続人は長男Bと長女Cの2人。 相続登記や遺産分割協議が未了のまま、BがCに無断で「C名義の委任状」を偽造し、相続財産である不動産を売却。 売却代金は全額Bが取得した。

● 発覚後の展開 Cが後日、不動産を訪問して所有者が第三者に変わっていることに気づき、司法書士を通じて調査 委任状が筆跡も印影も偽造であることが判明 売買契約は無権代理行為として無効となり、買主は代金返還請求をBに対して行う CはBを私文書偽造罪・同行使罪で刑事告訴 不動産会社も「委任状確認義務違反」を指摘され、損害賠償請求の対象に

● 問題点の整理 代理権が存在しない → 契約無効 委任状が偽造 → 刑事罰 遺産分割未了 → 売却権限なし トラブル拡大 → 買主保護、登記抹消、損害賠償、刑事告訴

 

◆ リスク回避のための実務的対応 全相続人の実印と印鑑証明を揃える  → 代理人契約をするなら、委任状+印鑑証明書(発行3ヶ月以内)を必須とする 代理権の範囲を明確化  → 「売買契約締結」「登記申請」「代金受領」など具体的な権限を明記 遺産分割協議を先に済ませる  → 共有状態のまま売却を進めると無権代理リスクが高い 公正証書委任状や司法書士同席での確認  → 公証人が本人確認を行うため、偽造防止になる 専門家・仲介業者による本人確認徹底  → 顔写真付き身分証・本人呼出確認・署名押印の立会い等

 

◆ まとめ 身内間でも「信頼しているから大丈夫」ではなく、形式的にも実質的にも正当な代理権を証明する手続きを踏むことが不可欠です。 委任状の偽造は重大な刑事・民事責任を招き、不動産取引全体を巻き込む大事故に繋がります。 代理契約は「身内」だからこそ、より慎重に。 早期に専門家へ相談し、法的に有効な委任・代理体制を整えてから売却や登記などの実務に進むことが安全です。

2025年10月18日