代償分割と譲渡所得税 ― 取得費の計上をめぐる実務の注意点 💰🏠📑
1. 代償分割とは? 相続において、遺産を特定の相続人が多く取得し、その代わりに他の相続人に金銭(代償金)を支払う方法を「代償分割」といいます。 例えば、自宅不動産を長男が相続し、次男・長女にはその分の代償金を支払うといったケースです。 👉 実務上よくあるのは「不動産は一人にまとめたいが、兄弟姉妹への公平性を担保するために代償金で調整する」場合。
2. 譲渡所得税と代償分割の関係 相続で不動産を取得した人が、その後売却する場合、譲渡所得税が発生します。 このとき 取得費の計算に「代償金」を加算できるか が大きな論点になります。 国税庁の基本的立場 代償金は「相続人間の財産調整」であり、通常は譲渡所得の取得費に算入できないとされています。 → つまり、代償金を払っても「払った人の取得費が増えるわけではない」という扱い。 一方で裁判例・学説上の議論 代償金が「不動産取得の対価に準じるもの」と評価される場合、取得費として認める余地があるとの見解もあります。 → 実務では「税務署により解釈が異なる可能性がある」グレーゾーン。
3. ケーススタディ
ケースA:長男が自宅を取得し、次男へ代償金を支払った場合 相続財産:自宅3,000万円 相続人:長男・次男 遺産分割:自宅を長男が相続、次男に代償金1,500万円を支払い 👉 この場合、長男が自宅を後日4,000万円で売却すると、 取得費は被相続人の取得費(例:1,200万円) 代償金1,500万円は原則「取得費に加算できない」扱い 結果、課税譲渡益は大きくなり、税負担が重い
ケースB:調停で代償金支払いが「不動産取得の対価」と明記された場合 調停調書に「代償金を支払って自宅を取得する」との文言がある この場合、一部の事例で取得費算入を認めた裁判例あり 👉 しかし税務署が常に認めるとは限らず、申告時に争いになりやすい。
4. 実務上の課題 税務リスク:代償金を取得費に加算できるか不明確 公平性のジレンマ:代償金を支払った相続人が、将来の譲渡で不利になりやすい 相続設計の重要性:事前に遺言や遺産分割協議で「代償金の性質」をどう記載するかがカギ
5. 解決策・工夫 遺産分割協議書の記載を工夫 「代償金をもって不動産取得の対価とする」と明記しておくことで、取得費算入の主張に説得力を持たせられる。 専門家と連携して申告 税理士が調停調書や協議書を添付し、取得費算入の合理性を主張。 不動産の評価調整 相続分配段階で評価を工夫し、将来の課税リスクを小さくする。 早期売却+空き家特例等の利用 相続直後に売却する場合、3,000万円特別控除などを使うことで税負担を軽減。
6. まとめ 代償分割は「相続人間の公平」を図る手法ですが、税務上は大きな落とし穴があります。 代償金が取得費に算入できないと、実際に代償金を支払った相続人が不利になるのが実務上の現実です。 👉 相続段階から「将来の売却と税務」を見据えて設計することが必須。 👉 書類の作り方や申告方法で結果が変わる可能性があるため、税理士・司法書士・弁護士の連携が重要です。