🏠💍 配偶者短期居住権のケーススタディ ― 残された配偶者の“6か月の猶予期間”をどう活かすか ―
ケース1:夫名義の自宅に住む妻、相続開始で居場所を失いかける
👨👩👧 家族構成 夫(被相続人・75歳):自宅名義人、年金暮らし 妻(配偶者・70歳):専業主婦、収入なし 長男(45歳):別居・会社員 長女(42歳):既婚・持ち家あり
🏡 相続財産 項目 内容 評価額 自宅(木造・土地含む) 神戸市北区北五葉 200㎡ 3,000万円 預貯金 - 500万円 合計 3,500万円
🧾 状況 夫が急逝。自宅は夫単独名義。 妻はそのまま住み続けたいが、長男・長女は「遺産分割を急ぎたい」と主張。 長男「家を売って現金化して平等に分けよう」 妻「そんな、今すぐ家を出るなんて無理です…」 このようなケースで機能するのが「配偶者短期居住権」です。
1. 権利発生のタイミング 夫が亡くなった瞬間、 妻がその自宅に現に居住していた場合、自動的に短期居住権が発生します。 つまり、妻は法的に「今すぐ退去しなくてもよい」立場を得ます。 この時点で所有権は相続人全員(妻+子どもたち)に共有状態ですが、 妻の居住権が優先されるため、 長男が「売却のため退去してほしい」と言っても法的拘束力はありません。
2. 居住できる期間 短期居住権は、 遺産分割が成立する日 または 相続開始から6か月経過の日 のいずれか早い方まで、妻は無償で居住できます。 👉 実務上は、遺産分割協議が4〜5か月かかるため、 だいたい半年弱は「安心して住める猶予期間」が確保されます。
3. 実務対応 ― 6か月の間にすべきこと
遺産分割協議を開始 妻の希望:引き続き住みたい 長男・長女の希望:現金分割を希望 このままだと売却・換価分割になってしまうため、 妻は次の選択肢を検討します👇
💡選択肢A:配偶者居住権の設定(長期) 遺産分割協議で、 「妻に配偶者居住権を与え、建物の所有権を子どもたちに」 という形をとれば、妻は終身住むことができます。 ただし、土地・建物の評価を分けて扱うため、 子どもたちの取り分(持分評価)をどう調整するかが課題。
💡選択肢B:家を妻が取得し、子どもへ代償金を支払う 妻が自宅を相続する代わりに、預貯金や別財産から代償金を渡す方法。 ただし、資金余力がないと実行困難。
💡選択肢C:売却し、住み替え費用を確保 やむを得ず売却する場合でも、短期居住権のおかげで 準備期間を6か月確保できる。 → 賃貸への転居・高齢者住宅探しなどを冷静に進められる。
4. 実務の注意点
🧩(1)登記は不要だが、証明書を残す 短期居住権は登記不要ですが、 後のトラブル防止のために「相続関係説明図」「住民票」「死亡診断書コピー」などを セットで保存しておくのが望ましい。
🧩(2)修繕・管理責任 妻は使用者として建物を善良な管理者の注意で維持する義務があります。 雨漏り・給湯器故障など小修繕は妻負担、大規模修繕は協議で対応。
🧩(3)固定資産税の扱い 短期居住権では課税主体(所有者)は変わらないため、 固定資産税は相続人全員で按分・負担するのが一般的です。
5. 実際のトラブル例 ケース:長男が勝手に売却を進めた例 長男が不動産業者に売却査定を依頼し、買付申込書まで取り付けてしまった。 しかし、妻の短期居住権が有効期間中であるため、 引渡しができず契約不履行となりトラブル化。 この場合、業者・買主側も短期居住権を知らないと、 「居住中で引渡し不能」という法的リスクを負うことになる。 👉 不動産仲介業者も短期居住権の確認は必須事項。 (媒介契約時のチェックポイントに入れるべき)
6. 税務のポイント 短期居住権自体には課税は発生しません。 固定資産税の課税対象ではない 相続税評価も原則ゼロ ただし、 後に「配偶者居住権」に転換した場合には、 その権利部分が評価対象となり、 所有権側(子どもたち)の評価が下がるため、 全体の相続税バランスが変化します。
7. まとめ ポイント 内容 対象者 被相続人の自宅に住んでいた配偶者 居住期間 遺産分割成立まで or 相続開始から6か月 費用 無償(家賃なし) 登記 不要 税務 評価ゼロ・課税なし 注意点 長期居住を希望するなら「配偶者居住権」への移行を検討
🐼ぱんだhouseコメント 「“6か月の短期居住権”は、残された配偶者の生活を守る最低限の時間です。 しかし、問題は“6か月後どうするか”。 遺産分割が長引く、住み続けたい、売却準備をしたい―― それぞれに必要な手続きや税の扱いが変わってきます。 私たちが現場で感じるのは、この半年をどう使うかがその後の生活を左右するということ。 不動産の評価・相続人間の意向・生活再建プランを同時に整理することが何より大切です。」