共有相続不動産の売却

共有相続不動産の売却 (共有持分・遺産分割・売却手法・税務まで、実務で使える手順と注意点を網羅)

要旨 共有相続不動産は「共有者全員の合意が原則」であり、合意が得られないと売却は難航します。合意が取れない場合は「共有持分の単独売却」「共有物分割請求(裁判)」「代償分割/換価分割」などの手段を順序立てて検討し、税務(特に取得費加算の特例)を踏まえた設計が重要です。

 

1. なぜ共有相続不動産は厄介か(本質の整理) 相続で複数名義(共有)になった不動産は、各共有者が単独で処分できない(原則は全員の同意が必要)。これが売却を止める最大要因です。 相続会議 共有状態のまま放置すると、管理負担(税金・修繕)や劣化、空家化リスクが増え、資産価値が下がりやすい。 感情(遺恨)・生活実態(同居・介護)・債務関係が絡むと合意形成がさらに難しくなります。

 

2. 法的・実務的に可能な道(一覧と長短) 共有者全員の同意で全体売却(通常の売却) 最もシンプルで高額回収が期待できるが、全員合意が前提。仲介・内見・買主との契約が通常どおり可能。 不動産SHOPナカジツ 各共有者が自分の持分だけを売る(持分売却) 単独でできる(自由処分)が、市場性は低く割安になりがち。共有持分専門業者へ売るケースが多い。 福岡で弁護士に相続・遺言のご相談をお考えの方へ - 生前対策サイト 一部の共有者が他の共有者から持分を買い取る(持分買取/代償分割) 事業承継的に一人にまとめたい場合に使える。買主が資金調達できるかが鍵。 換価分割(共有物を売却して代金を分配) 遺産分割協議で「換価分割」を合意しておけば、全体売却→代金配分で清算可能。現金化して分けるので後腐れ少ない。 共有物分割請求(裁判) 合意不能のときは民法256条に基づく共有物分割請求を裁判所に申し立てる。裁判所は「分筆・競売・価格配分(代償分割)」等の手段を命じる。時間と費用がかかるが強制力あり。 強制競売(最終手段) 分割請求の結果、裁判所が売却(公売)を命じることがある。市場価格より低くなることが多い。

 

3. 売却までの実務手順(現場で回すチェックリスト) 相続人の確定(戸籍収集) 誰が相続人か戸籍で確定。相続関係説明図を作成。 相続登記(共有名義に変更) 被相続人名義のままでは売れないため、まず相続登記を行う(共有登記)。法務局手続。 現状把握(登記/抵当権/賃貸関係) 抵当権や根抵当、借地権・賃貸借の有無を確認。借家人がいれば退去や引継ぎ条件の調整が必要。 相続人間で協議(遺産分割協議書作成) 換価分割、現物分割、代償分割など方針を決め、合意を文書化(署名+印鑑証明)。換価分割の明記は売却の実行力を高める。 査定・販売方針の決定 仲介・買取・持分売却の選定。仲介で売るなら媒介契約を結ぶ。売却条件(最低価格、売却期間)も合意。 売却実行・精算 成約後、仲介手数料・測量費・残債清算等を差し引き、持分割合に応じて代金分配。換価分割なら遺産分割協議書の文言に従う。 ベリーベスト法律事務所 税務処理(相続税・譲渡所得・取得費加算) ← 特に重要(下項参照)。

 

4. 税務上の重要ポイント(譲渡所得・相続税との関係)

① 「取得費加算の特例」について(国税庁) 相続で取得した不動産を相続開始から一定期間内(概ね3年10ヶ月以内)に売却する場合、支払った相続税の一部を譲渡資産の取得費に加算できる特例があります。これにより譲渡所得税が軽くなる可能性があるため、売却タイミング設計が重要です。

② 譲渡所得の帰属と按分 売却代金・費用・取得費は各共有者の持分割合に応じて按分して譲渡所得を計算します。ただし、売却前の遺産分割で個別に持分を変えたり代償分割を行った場合は、取得費の帰属が異なるため税負担が変わります。専門家での按分設計が必須。

③ 換価分割の税務上の注意 換価分割で売却した場合、売却益に対して譲渡所得税が発生します。相続税の申告と相互関係があるため、相続税申告を先に行い、取得費加算の特例適用を検討する流れが一般的。

 

5. 合意が得られないときの戦略(優先順位) 再交渉で妥協案を探る(持分譲渡・一部買取・分割代償) 共有持分を専門買取業者へ売却(即金が必要なら) 共有物分割請求(裁判)を検討 — 時間はかかるが解決手段として有効。 最終的に裁判判決で売却(公売)されるリスクを認識する

 

6. トラブル事例と実務解決パターン(ケース別)

ケースA:一部相続人が売却に反対 → 代償分割で問題解決(売却せず一人が取得し、他人に代償金支払)。買主が資金を調達できるかが鍵。

ケースB:相続人の一人が行方不明・連絡取れない → 戸籍調査・公告手続の上で代理決定、または裁判所で共有物分割請求を行う。

ケースC:売却代金から税負担が予想以上に発生 → 売却価格シミュレーションを事前に行い、取得費加算の特例適用で税額を圧縮できないか税理士と検討。

 

7. 実務チェックリスト(遺産分割〜売却完了まで) 戸籍・除籍を全部取得したか? 相続人全員の印鑑証明を取得したか?(相続登記・協議書用) 抵当権・借入の状況を確認したか?(金融機関との整理) 売却方針(仲介・一括買取・分割売却)を全員で合意したか? 税理士に取得費・譲渡税の試算を依頼したか?(取得費加算の特例含む) 遺産分割協議書を作成し、必要事項(換価分割・分配方法)を明記したか?

 

8. 交渉・契約時の文言例(ポイント) 「本件不動産は遺産分割協議により換価分割を行うものとする」 「売却代金は各共有者の持分割合に従い配分する」 「売却に要する費用(仲介手数料・測量費・解体費等)は売却代金より控除する」 これらを遺産分割協議書に明記すると、売却段階での争いが減ります。

 

9. 実務的なアドバイス(ぱんだhouse視点) まず合意で解決する。合意が速いほど売却価格は良くなる。 合意が見込めない場合、早めに弁護士を交えて共有物分割請求の戦略を立てる。時間と費用の見積りを共有者全員に伝える。 税務上のメリット(取得費加算の特例)を活かすため、売却タイミングと相続税申告の順序を税理士と綿密に相談する。 共有持分の市場売却を検討する際は「共有持分専門の事業者」にも相談して比較検討する(一般市場だと買い手がつきにくい)。

 

10. 最後に(まとめ) 共有相続不動産の売却は「法務(相続登記・遺産分割)」「不動産マーケット」「税務」の三点を同時に設計する仕事です。 早めの合意形成・文書化と、税務面での有利な特例適用の検討が成功の鍵。個別ケースによって最善手が大きく変わるため、司法書士/弁護士/税理士/不動産仲介で早期にチームを組むことを強く推奨します。

2025年12月04日